山中に水を汲む・・・・・

冬期通行止の看板が外されて、水汲み場への道が通れるようになった。
 待ちかねて俺は水汲み場へアクセルを踏んだ。長かった雪のせいで林道
は木の枝やら落石やら崩れた土砂やらがあちこちにあり、このままひき返し
たほうがいいかなと思うほどであった。
  その上、山中に向かって進む車など無いので妙に不安な気分である。
  進めば、中に軽トラ半分くらいの落石がある。こんなに大きいのでなくとも、
道路の荒れようとか、山肌を見ていればまだ、落石のありそうな危うさの残る道。
 
 それを20分ほど右へ左へうねって進んだところで目的の水汲み場に到道した。
 そこは岩の割れ目から水がしみ出し、この地方ではある程度知られた名水の場
所だ。地元の人達が、常日頃より掃除点検されているので綺麗になつている。
 準備してきた3本のポリタンクに大して時間もかからず満杯にしてから、春の山にい
る気持よさから、少し散策でもと思った。そこへ目に入つてきたのが、ここへ来るまで
いくつか立っていた「熊出没注意!」の立看板。  熊出没注意 (620x640).jpg
どこにでも立つているので、どうという
ことはないと思ったが、念の為にとあたりを見まわすと、斜面はまだ葉のついてな
い木々なので゙よく見える。およそ熊らしい気配は全くといっていいほど無かった。 
 少し離れたところに案内板が見え、そこで見れば滝が見えるらしい。そこへ行く階段
がその横から続いている。ちょっと行って見るかと思い上り始めた。のぼり始めて熊出
没の文字が頭をよぎった。そうだ、歌でも大声出してうたうか。そう思い声をはり上げた
が谷川の音が大きく、とても人間の声が熊の耳にとどくと思われなかった。
  迷った。「引き返すか。」 
 俺は階段をおり始めた。車のドアを締めた時に何故かしら、ほっとした。見回わしても
熊はいない。俺はふだん、立派なことを思い、語つているのだが今日この山中に一人
いて確かに怯えていた。車という鉄の扉に守られた時、おちつけたのだ。
 自分の憶病さにガッカリ。
 あの階段にいて感じたおびえはどうしてやってきたのか?自分よりはるかに強い野性
の動物に対してこの身を守りたい。まだ生きていたいという本性があるからなのか。
  自分がとても弱いただの文明社会に順化した猿にすぎないと思った出来事だった。[たらーっ(汗)]