忘れられない詩(君死にたもうことなかれ)

高校の国語の教科書にあった有名なこの詩(一部削除してあります)は今も私のものの考え方の根っこになっています。
 私の子供のころはまだ戦争で手を失ったり、足を失った人を見たものです。
 アコーディオンを弾き、缶に投げ込まれる硬貨に深々と頭を下げていらっしゃいました。
 そういう人を見ると幼心に奇異に感じたものです。
 大人になったときその理由ガ分かりかけましたが、経済成長の中でそういう人を見ることも無くなり、考えることもなくなりました。
 何がしかの事件とか紛争とかが起こると世の中に勇ましいことをいう人はいくらでもいます。しかし、ほとんどの人は自分が安全な場所で言っているのです。
 言わば、ただの話です。
 悲惨を見たり、其の渦中にいた人はとてもそんな勇ましいことを言えるものではありません。深い悲しみと嘆きと明日への不安の中で願うことはひとつしかありません。

君死にたもうことなかれ
ああおとうとよ 君を泣く
君死にたもうことなかれ
末に生まれし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刃(やいば)をにぎらせて
人を殺せとおしえしや
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや

ああおとうとよ 戦いに
君死にたもうことなかれ
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまえる母ぎみは
なげきの中に いたましく
わが子を召され 家を守(も)り
安しと聞ける大御代(おおみよ)も
母のしら髪(が)はまさりぬる

暖簾(のれん)のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻(にいづま)を
君わするるや 思えるや
十月(とつき)も添(そ)わでわかれたる
少女(おとめ)ごころを思いみよ
この世ひとりの君ならで
ああまた誰をたのむべき
君死にたもうことなかれ