とうちゃん

       平成20年4月24日
とうちゃんは十五で、てて親に死別れ。
手に職つけてとばあちゃんが、その兄に土間に頭をすりつけて、どうにかなった大工弟子。
ああそれなのに、貧乏暮らしに徴兵うけて残る家族は火の車。
それでも運よく大垣連隊で終戦に、危うく拾うた命が元手。
なにくそ一本大工道、
酒に負けん気、一本気、墨さし一本見栄張る人生七十四年。
 そのとうちゃんがこの子にだけはとほしいものも我慢して、ならぬ堪忍重ねつつ作った学費を浪費して・・・・・
ヒトカドの男になれよと願った心を、裏切り、裏切り、重ねた年。
親の残せし大工の道具、手にすればとめどなく涙落ち、涙落ち、なせる不孝の数々をわびれどもわびれども
・・・・かえる声すでに無し・・・・・・・・・。

幼い頃、木の匂いはとうちゃんの匂い、
木の匂いに ふくまれて とうちゃんのあせくさいが大好きなにおいがした。


        平成20年11月19日
 とうちゃん、あんたの顔がみたいよ。ただそれだけ。


        平成21年2月27日
 とうちゃん、幼馴染のヒラトモさんが亡くなったよ。82だよ。最初は脳梗塞だと息子のユタカ君が通夜で話してた。あなたとおんなじだよ。
遺影を見上げながら思いました。あなたより長生きしたヒラトモさんに聞いておくべきだったな。
「子供のころ、オラの父ちゃんとなにして遊んだが?、どんなことで喧嘩した?、どんなヒトやった?、・・・。」 と。しかし、そんなこと一つでも聞いたら涙が溢れて次に聞けなくなるのだろうな。知らぬがヨシ。そういうことなんだろう。
通夜には父ちゃんを知るもう一人の幼馴染みチョクさんがおまいりされてた。離れてその人を見る私は「やさしい人」になっていたかも知れない。


        平成21年9月27日
 とうちゃん、息子が結婚したよ。あなたに見てほしかったよ。
結婚式の花束からいいのを選びあなたの墓前に飾ります。手を合わせると涙が止まりません。うれしくて、そしてあなたに会いたくて