鼬(いたち)

愛用のダイハツ・ハイジェットで走行中に鼬が走りぬけた。
 何十年も見た記憶がなかったが、まだいたのだ。
 ここ、となみ野はコンクリートで固めた用水が幅を利かし
 平野の中にかつてあった雑木林や森や薄の群生もない。
  カブトムシもクワガタもカミキリムシもいない。
  川に鮒もいなければ鯰もいない、ドジョウだけが辛うじて
 田圃の水口などにいる程度だ。兎もいなければ野良犬も
いなければ青大将の太いのも鼬もでっぷり太ったトノサマガエル
もいないのだ。

 いるはずもないと思っていた私の目の前を通り、百姓屋へ
逃げ込んだ鼬。夕日にカーキ色の体毛を見せていた。
 かつて百姓屋はみな鶏を飼っていた。
 
 鼬はそれを狙い血を吸った。全滅させられることもあったのだ。
 にっくき鼬野郎も 久しく遭わなかったので 懐かしく声をかけて
やりたい気分であった。 
 
 「おい、久しぶりだな、今どうしてる?」

  (文字の色は私が見た鼬の色です。 )


※ 私の地方ではイタチのことを トバ と言いました。
  今の若い人は知らないかも知れません。

  彼らが知らないのは当然です。
  私たちの親の世代から私たちの世代まで、コンクリート
  鉄の文明に魅了され、ブルドーザーで人工のムラに作り
 変えてしまったからです。