イワクラさん

朝刊野球
 朝刊野球は今から2,30年前は非常に盛んだった。仕事へ行く前に野球をやるのだから
大したものである。
 普通は対戦チームとその家族ぐらいがいれくらいのこじんまりとしたものだ。
 
 ところがそこに鳴り物を持って応援する変なおじさんがいた。
私設応援団(団員.本人一人)の団長イワクラさんだ。
 とにかく声がでかい。恥ずかしいと言うことを知らない。
 運よく?そのチームが郡の大会で優勝した。朝早く、主催する新聞社所長が来ての簡単な
セレモニーで表彰状授与式となる。静かに厳かに事務的に終わるはずだったが
突然、表彰状をチームの代表が受け取りに出たとき
 鳴り響いた 口での パーンパアパア、パーンパア、パパパパ、パンパンパーパ、パン・・・・・
が鳴り響いた。
 黒い顔、大きな目、太い眉、小柄でがっちりした イワクラさんが 大声でやっているのだ。

 表彰状を渡すほうはおかしくて表彰状を読めず、受け取るほうもおかしさをこらえ下を向いて
いたそうである。
 イワクラさんの活躍は県大会でも遺憾なく発揮された。たった一人でT球状でドンチャカドンチャ
朝刊野球をやるものの間で有名人となってしまった。

司会者
 ある大会の事務局をしていた私は、そのイワクラさんに総合司会を頼むことになった。
 ある程度打ち合わせを終え
 準備したマイクを差し出すと 彼はいらないという。
 地声でやるという。
 はじまるとそれはすごい大声で なるほどマイクはいらなかった。
 
 会場の奥まで彼の声は響き渡り、物怖じしない彼の進行もまた見事であった。

 暫くの付き合いであったが 私が異動で挨拶に行くと 寂しくなると小さく言った。

 それから数年して彼が体調を崩し足をひきづって歩いていると聞いた。人一倍の
よく働く人でもあったが、退社したと風の便りできいた。
もし
 いまはどうされているか分からない。
 ふっと、どこかの町で、見かけたらハイタッチしてきそうな人である。
 彼のような人が いて 世間は すこし 和らいだ 気分になれるのだと今も思っている。